プラスチックについて

加工品や装置、治具を作る時に知っておきたい、プラスチックの種類と特徴

世間一般に「プラスチック」と呼ばれるものはもちろん、それ以外にもプラスチックにはさまざまな物があり、
その種類は100以上もあります。
そして、それぞれの特性を活かし、食品容器、バケツ、水族館の水槽窓、カメラレンズ、真空ポンプ、洗浄槽、ドライヤー、
ポリ袋、パイプ、建材など、さまざまな分野・製品で使われています。

今回は、メーカーが必要とする製造装置や治具などの製作に役立てていただくため、プラスチックの種類や特徴を
分かりやすくまとめていきたいと思います。

そもそもプラスチックとは?

プラスチックとは、高分子物質(石油などを原料とした人工的な樹脂。合成樹脂。)を主原料として、人工的に有用な形状に形作られた固体のことです。この定義に当てはまる物でも、繊維・ゴム・塗料・接着剤などはプラスチックには含まれません。
軽量で丈夫、大量生産により安価に製造出来るものも多く、私たちの身近にあるさまざまなものに使われています。

プラスチックの特長

プラスチックには優れている性質も多く存在しますが、半面、弱点ともいえる短所も多く存在します。
これらをよく理解したうえで、装置やユニット、部品等を設計・製作すると、今抱えている問題や課題を解決していく事が可能となります。

特長1 軽い

同じサイズの鉄と比べると、約1/7の重さです。
多くのプラスチックの比重は1前後で、水と同じくらいです。ポリプロピレンなど、比重が1より小さく水に浮くものも
多くあります。
重量に課題がある場合に、軽量化のため使われます。

特長2 成形できる

加熱により軟化するので、さまざまな形状への加工が可能です。
主に射出成形、押し出し成形、ブロー成形、圧縮成形があります。
金属製の棒やネジ、端子などを装着してプラスチックを注入、一体成形するインサート成形なども可能です。

特長3 電気を通しづらい

プラスチックは絶縁性を有しているものがほとんどです。検査装置や計測器、製造装置や治具に絶縁性が求められる環境でよく使われます。
ただ、電気を通さない一方で、帯電(静電気を持つ)しやすいという特徴もあります。静電気が問題となる現場では、
帯電防止策により対応します。

特長4 さまざまな硬さのものがある

プラスチックには、表面が硬いもの、柔らかいもの、弾性があり曲げなどに強いもの、たわみづらいものなど、
種類によりさまざまな硬さのものがあります。製作する装置や治具に求められる条件に合わせて、
素材の選定が行われます。

特長5 滑りが良いものがある

プラスチックには、摩擦係数が低く、滑りが良いものもあります。フライパンの表面などに使われる「テフロン」は、
一般的によく知られている滑りの良いプラスチックです。
摺動性(滑らせながら動かす)を要する装置や治具などに使われます。

特長6 薬品に強いものがある

プラスチックには安定した分子構造を持つものが多く、薬剤や溶剤に触れても溶けたり、変形したり、
劣化したりすることがないものがあります。
薬剤や溶剤、ガスを使用する現場のタンク、槽、配管、パッキン、ガスケットなどによく使われます。

特長7 水に強い

プラスチックは金属や木製に比べ、錆や腐食が少ないので、水周りでの仕様には適しています。
しかし、吸水率の高い材質も存在しますので注意が必要です。

特長8 見た目が良い

高い透明度や、さまざまな色彩で作れる物があり、見た目が良いのもプラスチックの大きな特長です。

プラスチックの種類

プラスチックは大きく「熱可塑性プラスチック」と「熱硬化性プラスチック」の2つに分かれます。

熱可塑性プラスチックとは、原料の樹脂に熱を加えると溶け、成形後、再度熱を加えても溶けて繰り返し使用することが
出来るプラスチックです。
現在使用されている多くのプラスチックが、この熱可塑性プラスチックです。

熱硬化性プラスチックとは、原料の樹脂に熱を加えると、高分子の網目構造を形成して硬くなり、再び柔らかくすることが
出来ないので、繰り返し使用には不適です。

主な熱可塑性プラスチックの種類

【汎用プラスチック】

安価で加工性に優れ、大量生産が可能なプラスチックです。耐熱温度は100度以下と低めです。
以下に主な汎用プラスチックをご紹介します。

・ポリエチレン(PE)

 耐薬品性・防水性・耐寒性・衛生面に優れているため、ポリ袋、洗剤容器、食品フィルム、菓子包装材など、
 あらゆる製品に使用されます。
 製品の軽量化、耐薬品性、低温下での利用、防水性などが必要な場合に使用が検討されます。

・ポリプロピレン(PP)

 対薬品性・防水性・耐摩耗性・耐熱性・弾力性に優れているため、繊維材料や自動車や家電のパーツ、
 安価なプラスチック製品などに使用されます。
 製品の軽量化、耐摩耗性、弾力性、耐薬品性、高温下での利用、防水性などが必要な場合に使用が検討されます。

・ポリスチレン(PS)

 加工性が高く、形の再現性に優れているため、食品容器やCDケース、プラモデルなどに使用されます。
 発泡成形した発泡ポリスチレン(発泡スチロール)は、緩衝材や食品トレイ、カップ麺容器などに使用されます。

・ポリ塩化ビニル(PVC)

 いわゆる「塩ビ」と呼ばれるものです。軟質と硬質の2種類があり、軟質は手で曲げられるほど柔らかいもので、
 繊維やビニールシートなどの生地、合皮の一部、ケーブルの被覆など、さまざまに使われています。
 硬質は密度が高く、引張強度が高い素材です。水道管やクレジットカードの素材など、さまざまに使われています。
 いずれも薬品に強く、着色性や電気絶縁性も高く、傷や紫外線に強く、強度もあり、耐水性にも優れているため、
 幅広い製品に加工可能です。

・ポリメチルメタクリレート(PMMA)

 いわゆる「アクリル」と呼ばれるものです。
 透明度が高く、光の透過率はガラスを超えます。また、ガラスと比べると耐衝撃性(割れにくさ)も高い素材です。
 着色しやすく、色も鮮やかに出るため、デザイン性に優れ、耐候性にも優れています。
 水槽やディスプレイ、看板など、さまざまに使われています。

・ABS樹脂

 衝撃や、高温・低温、薬品にも強く、丈夫な素材です。
 印刷や塗装などの表面加工もしやすく、加工表面には光沢が出るため、デザイン性にも優れています。
 おもちゃのブロックやトランク、ヘルメット、車の内装などに使われています。

【汎用エンジニアリングプラスチック】

汎用プラスチックよりも機械的性質や耐熱性に優れ、工業用の部品として高い性能を求められて開発されたプラスチックを「エンジニアリングプラスチック(エンプラ)」といいます。以下に主な汎用エンジニアリングプラスチックをご紹介します。

・ポリアミド(PA)

 いわゆる「ナイロン」と言われるものです。
 ポリアミドにはいくつか種類があり、その種類によって性質が大きく異なります。
 汎用エンジニアリングプラスチックとして多く使われているのは「ナイロン6」と「ナイロン66」で、
 これらは引張強度、降伏点、伸び、絞り、硬さ、衝撃値など機械的性質に優れ、耐摩耗性、耐熱性、絶縁性にも
 優れています。
 ストッキング素材などの衣料品、ファスナー、釣り糸、バッグなどさまざまな分野で使われています。

・ポリカーボネート(PC)

 アクリルよりも透明度は落ちますが、ガラスと同等程度の透明度を持ち、耐熱性や耐衝撃性(割れにくさ)は
 アクリルを凌ぎます。
 耐候性や加工性にも優れていています。
 日用品や建材、サングラスやメガネ、照明カバー、飛行機の窓など、その用途は多岐にわたります。

・ポリエチレンテレフタラート(PET)

 ペットボトルの材料として有名なプラスチックです。
 用途によりさまざまなグレードがあり、名称もメーカーにより異なります。
 高い耐寒性、透明性、耐水性、絶縁性を持ち、引張強度や曲げ強度も高く、優れた性質をたくさん持っています。
 食品容器やフィルム、磁気テープ、衣類やテント素材に使われるなど、幅広く使われています。

・ポリブチレンテレフタレート(PBT)

 耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性、電気特性に優れ、加工性、寸法安定性も良いことから、工業用製品の機能部品に
 用いられることが多く、エンジニアリングプラスチックの中では日本国内で多く使われているものの1つです。
 電気電子部品、自動車の電装部品、スキー用品、高機能スポーツウェアの繊維などに使用されています。

・ポリアセタール(POM)

 摩擦係数が少なく耐摩耗性が高い素材で、自己潤滑性があリマス。
 また引張強度、降伏点、伸び、絞り、硬さ、衝撃値など機械的性質にも優れ、高い温度安定性も持ちます。
 耐疲労性やばね特性にも優れ、クリープ(高温下で一定の荷重が加わると時間の経過とともに変形していく現象)が
 発生しにくいのも特徴です。
 こうした特性から金属の代替品として使用されることが多い素材です。
 ギア(歯車)やベアリング(軸受)、楽器類などに使われています。

【スーパーエンジニアリングプラスチック】

エンジニアリングプラスチック(エンプラ)がさらに高機能になったプラスチックを「スーパーエンジニアリングプラスチック」といいます。以下に主なスーパーエンジニアリングプラスチックをご紹介します。

・ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)

 いわゆる「テフロン®」と言われるものです。
 優れた耐熱性、耐薬品性、低摩擦特性を持ち、撥水、撥油、非粘着性(粘着物がくっ付きにくい)も持ちます。

・ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)

 強度や剛性はもちろん、耐熱性、耐薬品性、高温時の機械特性にも非常に優れており、対熱水性や対スチーム性にも
 優れています。
 また、クリープ特性や耐疲労性、耐摩耗性、難燃性にも優れていることから、金属代替等の信頼性が必要とされる分野で
 使われています。
 機械製造や医療器具、エレクトロニクス分野で活用されています。

・ポリエーテルイミド(PEI)

 耐放射線性、対紫外線性、耐難燃性、電気的特性、耐熱水性、耐熱性に優れ、高温下での機械特性にも優れた
 プラスチックです。
 半導体分野、食品分野・医療分野のスチーム洗浄部品、自動車分野などで使われています。

・ポリアミドイミド(PAI)

 非強化プラスチックの中では最高の機械強度を誇り、その強さは高温下でも発揮されます。
 高温下での耐摩耗性、自己潤滑性があるため、高音部でも無給油での摺動部材として使用できます。
 その性能から金属の代替材料として利用されることが多く、
 自動車、半導体製造装置、航空宇宙産業向けの部品、機械加工部品などで採用されています。

主な熱硬化性プラスチックの種類

熱硬化性のプラスチックは、その名の通り、熱を加えると固まるプラスチックです。
クッキーや陶器をメー時すると分かりやすいかと思います。
以下に主な熱硬化性プラスチックをご紹介します。

・メラミン

 メラミンスポンジ、メラミン食器、メラミン化粧板など、一度は耳にしたことがあるかと思います。
 メラミンは耐衝撃性、耐熱性、難燃性、光沢性、耐水性、耐候性、着色性に優れ、表面硬度が高く、傷がつきにくいため、
 食器や建材などに多く使われます。

・エポキシ

 耐蝕性、耐水性、耐熱性、耐薬品性、耐湿性、耐候性など、さまざまな耐性を持っており、
 寸法安定性、電気絶縁性、接着性、機械的性質にも優れている素材です。
 コーティング素材や塗料、接着剤、コンクリートの劣化防止、半導体、電子基盤や電子部品の塗料などに使われています。
 また、ガラス繊維やカーボン繊維と混ぜて複合材料としたGFRPやCFRPなど、強化材として活用されています。

・ポリウレタン

 弾力性に優れ、柔軟性があるが、機械的性質、耐摩耗性、耐薬品性、耐候性にも優れています。
 パッキンやキャップ、安全靴やスキーシューズ、伸縮性のある衣類などに使われています。

いかがでしたでしょうか。
一言でプラスチックと言っても さまざまな種類や特長があり、それらの特長や性質を理解した上で、
加工品や装置、治具の設計、製作をすることが大切です。
ご自身で調べて勉強して理解することももちろん大切ですが、プラスチック加工を専門とする会社に相談することも
1つの方法です。
どのような条件で、どういった利用をするのかを詳しく伝えて、協力しながら加工品や装置、治具の設計、製作をすると
良いかと思います。